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美濃国不破故関銘并序（1822 文政五年）

美濃国不破故関銘并序

天武帝自春宮遜吉野之明年、将入東國紓難。発師塞不破道遏近江之衆。駕入美濃
諸軍稍至。乃　命将軍村国連男依等、自不破道出與近江師戦瀬田克之。男依等献捷
不破行宮。又明年二月。　　帝即位飛鳥浄見原宮。於是詔置不破関。後世遂併勢
之鈴鹿、越之愛発、称曰三関。　国家毎有　大喪及辺警、必固三関。至延暦八年、以区宇
無外詔廃三関。其後一脩一廃、及室町氏之季雖頽尚存。昔詠故関秋風以此也。按
地図関址在今大関村西。自江之磨鍼嶺連山簇擁至関藤川。川上蓋其墟而関原正在
其東。夫関原者、我　　烈祖大君之所摧奸臣三成之師以定大業之地也。鳴呼、王
覇鴻業、千歳相望、　武成之慶、倶在斯地。其惟休哉。家君嘗還自津島経此登覧、慨然久
之。有民名昌周、世居其墟。與父老胥謀、乞銘不果、今則其請及余也。辞曰、

不破之郡　維西巑岏、在昔壬申、　　帝出南山、一丸以封、撻伐惟張、奏凱献馘、　皇極攸
正、乃設茲関、爰護于京。閲世綿邈、弗脩弗扃。降慶長初、豊閤即世、好臣扇乱、馮恃余烈、誘
彼侯伯、陽傅大義、惟時侯伯、有明有昧、或去或就、脅従寔繁、其徒如林、一十二萬、負険阻
澗、矢斯湿原。天厭乱畧、祝其畔援。　大旆一動、妖気霧釈。小者承家、大者開國。彼昧不明、
喪亡黜削。詿誤脅従、慨慷以激。雱沛之澤、順我　帝則、　鐫銘貞�a、置茲古墟。百辟卿士、以
来以徂、千萬斯載、曷視斯詞。
　文政五年歳次　壬午春二月　林 皝　撰文　関 研　書
　　　　　　　　　　　　　　　　　 市河 亥　題額

美濃国不破故関の銘　并びに序

天武帝、春宮(皇太子の御殿)より吉野へ遜(のが)れたまふの明年(672年)、将に東国に入り難を紓(ゆる)めんとす。
師(いくさ：軍)を発し不破の道を塞ぎ近江の衆を遏めたまふ。駕して美濃に入るや諸軍稍(やや)至る。
乃ち将軍、村国の連(むらじ)、男依(おより)等に命(みこと)して、不破の道より出で、近江の師と瀬田に戦ひ之に克ちたまふ。
男依等、捷(捷報)を不破の行宮へ献ず。
また明年二月。帝、飛鳥浄見原宮(浄御原宮きよみはらのみや)に即位したまふ。是において詔りして不破の関を置く。
後世、遂に勢(伊勢)の鈴鹿、越(越前)の愛発(あらち)と併せ称して三関と曰ふ。
国家、大喪及び辺警有る毎に必ず三関を固む。延暦八年(789年)に至り、区宇(天下)外なきを以て(統一したので)詔りして三関を廃す。
其の後、一脩一廃(修理したり廃止したり)、室町氏の季(すゑ)に及びて、頽(くず)ると雖も尚ほ存す。
昔「故関の秋風」を詠ずるは、此を以てする也。
地図を按ずるに関址は今の大関村の西に在り。江(近江)の磨鍼嶺より連山簇(あつま)り擁して関藤川に至る。
川上は蓋し其の墟、而して関原(関ヶ原)は正に其東に在り。
それ関原は、我が烈祖大君(徳川家康公)の奸臣三成の師を摧き、以て大業を定められし所の地なり。
鳴呼、王覇鴻業、千歳を相ひ望んで、武成(：周の武王に擬して天下統一を謂ふ)の慶びは、倶に斯の地に在り。
其れ惟へば休哉(やんぬるかな)。家君(父の林述齋)嘗て津島(対馬)より還り此を経て登覧、慨然、之を久しうせり。
民に昌周と名づくる有り、世(世々)其の墟に居す。父老と胥(あ)ひ謀りて銘を乞ふも果さず、今、則ち其の請、余に及ぶ也。辞に曰く、

不破の郡、維れ西、巑岏(さんがん：巉巌)たり。
昔、壬申に在りて、帝、南山を出で、一丸以て封じ、撻伐(膺懲)惟れ張り、凱を奏し馘を献ず、皇極を正せし攸(ところ)。
乃ち茲(ここ)に関を設け、爰(ここ)に京を護る。世を閲して綿邈(連綿)、脩むるなく扃(とざ)すなし。
慶長の初めに降り、豊閤(豊臣秀吉)世に即く(逝去す)。
好臣(石田光成)乱を扇り、余烈(亡き秀吉の威光)を馮恃(たの)みて、彼の侯伯を誘ふに、陽(いつは)り大義を傅(ふ：もりたて)す。
惟れ時の侯伯、明(明敏)あり昧(蒙昧)あり、或は去り或は就く、脅従(脅かされて従ふ)も寔に繁く、其の徒は林の如し。
一十二萬、険を負ひ澗を阻んで、斯れ湿原に矢(つらな)れり。
天は乱略を厭ひて、其の畔援(横暴)を祝(断)てり。大旆(家康の軍旗)一動して、妖気霧釈(霧散)す。
小なる者は家を承け、大なる者は国を開く。
彼の昧(くら)く不明なるは、喪亡黜削(所領没収)。詿誤(けいご：錯誤

)して脅従せるは、慨慷以て激しうす。
雱沛(ほうはい：滂沛)たる沢(めぐみ：余沢)、我が帝則に順へば、銘を貞�a(石碑)に鐫(ほ)り、茲の古墟に置く。
百辟(多くの)の卿士は、以来以徂、千萬の斯れ載(これから去来する千万年)、曷(いずくん)ぞ斯の詞を視ん。(なんでこの詞をみるだらうか)

　文政五年(1822年)　歳次壬午　春二月　林 皝(林檉宇1793−1847)　撰文　関 研　書
　　　　　　　　　　　　　　　　　 市河 亥(市河米庵 1779−1858）　題額

『碑文をたずねて ; 1　岐阜県下碑文(漢文の部)』　岐阜県歴史資料館, 1994　の解釈にほぼ拠った。

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